KAWASHIMA TAKASHI
Mandarin Orange and No.lV
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KAWASHIMA TAKASHI
Mandarin Orange and No.lV
芥川龍之介が横須賀を舞台に描いた著作『蜜柑』は物語のほとんどが、薄暗い車内、トンネル、手元の新聞に書かれたニュース、貧しそうな少女、車内に入り込む汽車の煙など、モノトーンに描かれる。そこに突然、「蜜柑」という色が現れ、その色や形、匂いが立ち上がり、私たちの想像を一瞬で鮮やかに色づける。
一方、同じく芥川が横須賀で描いた『横須賀小景』にある『五分間写真』という散文では、何気ない日常に友人と五分間写真を撮影し、ローマ字のⅣという数字が描かれた写真が吐き出される。五分間写真という機械そのものが、当時の横須賀の先進性や西洋と東洋の文化の混じり合いを象徴しながらも、そのたった1枚の失敗した写真の出現が、私たちに言いようのない行き止まりを感じさせる。
『蜜柑とⅣ番』では小さな暗がりのトンネルを舞台に、芥川の遺族が植えた蜜柑を撮影したイメージと当時の証明写真機「五分間写真」と同じ手法を用いて制作されたイメージを用いて、芥川の文体の特徴でもある、隠喩と対比、豊かな色彩表現について考察する。
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川島崇志
写真家。1985年宮城県生まれ。2008年東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、2011年同大学大学院芸術学研究科博士前期課程メディアアート専攻写真領域修了。2016年から2018年までオランダ・アムステルダムを拠点として活動し、2018年帰国。写真作家、コマーシャルフォトグラファー、大学教員として活動している。東京工芸大学芸術学部写真学科助教。自然現象や土地の記憶からはじまる「不在の物語」を主たるテーマとしている。自身が撮影した写真映像素材、ファウンドフォト、自動演算による画像合成、立体作品、文学作品から引用テクストなど多様なメディアを交え、空間を利用した大型インスタレーションを展開する。展覧会、受賞等多数。