JEAN-VINCENT SIMONET
Deep peeling
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JEAN-VINCENT SIMONET
Deep peeling
この作品は、有楽町アートアーバニズム YAUが主催するレジデンス・プログラム『X_CHANGE – YAU International Urban Exchange Program Vol.3』の期間中に制作されました。撮影は解体作業が進む2つの建物の内部と、閉鎖されたKK線高架道路の一部区間で取り組みました。これらの場所は「解体」と「再構築」の間にある、変容のプロセスそのものを体現しているため、制作の場として選ばれました。
東京は常に変化し続ける都市であり、有楽町はそのダイナミズムを象徴するエリアです。商業、交通、娯楽が絶えず再編され、街全体が目まぐるしく姿を変え、新たな中心へと生まれ変わっていきます。私はこの作品に、その「変容の流動性」を映し出したいと考えました。私の制作プロセスでは、写真を変化可能な素材として扱い、表面は剥がれ、液状化し、歪んでいきます。やがて写真は再現としての役割を超え、都市そのもののように──仮設的で、繊細で、常に動き続けるものとして──振る舞い始めます。目的は、有楽町再開発の一瞬を「捉える」ことではなく、むしろその都市を突き動かしているスピード感へとイメージを巻き込んでいくことでした。
このアプローチは、ドゥルーズの「折りたたみ(fold)」という概念と呼応しています。それは決して平坦にならず、曲がり、ねじれ、「内」と「外」を同時に含み込むような表面です。東京の都市空間もまた、まるでそのような「折りたたみ」の状態にあるように感じられます。固定された構造ではなく、拡張と収縮を同時に孕む、動的な表層。私はこのイメージ制作を通じて、その感覚──都市とは尽きることのない「折りたたみ」のような存在であるという感覚──に形を与えたいと考えました。
完成したフレスク(壁画)は、インフラの断片で構成されています。ダクト、足場、クレーン、鉄道、反射するガラスの破片など──それらは壮大でも記念碑的でもなく、むしろ日々の生活の中で見過ごされがちなディテールです。しかし、常に組み立てと解体を繰り返す作業員たちの存在が、このフレスクを具体的な「人の営み」に結びつけ、変化という機構の背後にある人間的なスケールを浮かび上がらせています。
私は長らく、写真をいかに「揺るがすことができるか」に関心を持ってきました。言い換えるなら、写真を「現実を記録する手段」から「変容する物質」へと移行させる可能性を模索してきたのです。プリントした写真は、液化や侵食のプロセスにさらすことで、イメージが描くそれ自身の姿と同様に、動的に振る舞い始めます。写真はもはや「証拠」ではなく、「出来事」となり、変化にさらされた表面として立ち現れるのです。
有楽町は「場所」であると同時に、「状態」でもあります。それは、加速、消失、再生によって成り立つ、東京という都市の新陳代謝の結節点。この作品はそのリズムに直接呼応し、不確定で移ろいやすい表面のフレスクとして展開します。建築と写真が交錯し、変化を続けることでのみ存続できる、都市のスピードを描き出すのです。
profile
ジャン=ヴァンサン・シモネ
アーティスト。ジャン=ヴァンサン・シモネ(1991年、フランス・ブルゴワン=ジャリュー生まれ)は、2014年にローザンヌ州立美術大学(ECAL)を卒業し、現在はパリとチューリッヒを行き来しながら活動している。
シモネは、伝統的な写真技法と実験的な版画・プリント技法とを融合させた実践を発展させてきた。工業印刷業を営む家庭で育った彼は、デジタルの精密さと手作業による触覚的な介入とを組み合わせている。21世紀におけるイメージの氾濫、過剰、さらには身体性の喪失に直面するなかで、彼はイメージの「アウラ」と物質性をよみがえらせることを目指している。
彼の写真作品はこれまで、ヴィンタートゥール写真美術館、ウェバー・ギャラリー(ロンドン)、セントロセントロ(マドリード)、キャバレー・ヴォルテール(チューリッヒ)、ルーアン・ノルマンディー写真センターなどで展示されてきた。また、エリゼ写真美術館(ローザンヌ)、フォーム写真美術館(アムステルダム)、LUMA財団(アルル)といった各機関のコレクションにも収蔵されている。