MORITA YUKI
Back Garden
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MORITA YUKI
Back Garden
2006年の七夕の夜、私の兄は何も言わずに家を去った。彼は10代最後の歳だった。1ヶ月半ほど経ってから、兄は近所の祖母の家に姿を現した。パンクしたママチャリを引きずり裸同然の姿で、言葉を発することさえ出来ないほどに疲れ果て、玄関前に呆然と立ち尽くしていたのである。その当時のことを私は、あまりよく覚えていない。ただ最近になって、兄に失踪した時のことを尋ねると、彼は海を見たと言った。場所は、横須賀。初めは3日〜4日間の旅だったと語ったが、母曰く1ヶ月半ほど帰って来なかったという。少しずつ話を聞いていくと、断片的な記憶が浮かび上がってくる。有楽町での職務質問、そこから海沿いに自転車で走ったこと、鉄橋の下や海辺での野宿、横須賀の海を眺めていたら突然後ろから罵声を浴びせられたこと、その先の観音崎の森で迷い帰ろうと思ったこと…今回の映像作品では、兄が失踪し辿り着いた横須賀の海を、当時の彼のなかの最果ての地だと想定し、兄をそこへ向かわせた「何か」を探る。兄が辿り着いた先で、あるいはその旅路で何を見ていたのかという、ごく私的な記憶を横須賀の歴史や伝承を通して紐解いていく。
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森田友希
写真家、映像作家。自己や他者の記憶のイメージを収集し、物語の構造をとりながら「不在」を テーマに写真や映像作品を展開。2016年「TOKYO FRONTLINE PHOTO AWARD #5」グランプリ受賞。 2017年、写真集「OBLIQUE LINES」をイタリアの出版社「L’Artiere Edizioni」コレクションとして刊行。